2012年11月25日日曜日

小林啓倫「3Dプリンタの社会的影響を考える」を読んだ

「3Dプリンタの社会的影響を考える」という小冊子がKindleストアで無料配布されています。著者は小林啓倫という経営コンサルタントの方です。

3Dプリンタの社会的影響表紙

英国の民間団体による政策提言レポートを参考に、3Dプリンターが社会にもたらすメリットとデメリット、今後の課題について概観しています。3Dプリンターによってもたらされるメリットについては、既にクリス・アンダーソンの「MAKER」などが出版されて各所で議論されていますが、デメリットについてまとめたものは多くないと思いますので紹介してみます。



「3Dプリンタの社会的影響を考える」では6つのデメリット(あるいは課題)が紹介されています。

1.「危険物の製造」:1つ目はこのブログでも取り上げた「危険物の製造」。Defense Distributedというグループが3Dプリンターを使用して銃を製造しようと試みた例のように、3Dプリンターによって危険物の製造が簡単になってしまうのではないか、という懸念です。

2.「製造物責任」:テレビに欠陥があり、小火になったのであれば責任はテレビメーカーにありますが、Web上でダウンロードしたモデルを3Dプリンターで出力し、使っているうちに怪我をしたときにその責任は誰にあるのか? という問題です。出力した使用者なのか、モデルのデザイナーなのか、3Dプリンターの製造者なのか判断が難しいのではないか、という懸念です。

3.「製造現場に置ける混乱」:3Dプリンターを製造工程のなかに導入する際の試行錯誤や人材の育成といった面と、3Dプリンターが日本の金型産業を脅かすのではないか、という面を指摘しています。

4.「輸送業の混乱」:3Dプリンターで製造が容易になれば完成品を海外から輸入するのではなく地域で生産するようになり、輸入業が打撃を受けるのではないか、あるいは原材料の輸送が活発になるのではないか、という懸念です。

5.「雇用の混乱」:3Dプリンターの普及によって既存の産業(例えば上で上げた金型産業や輸入業)が打撃を受ける事で生じる失業者についての懸念です。

6. 「知的財産権」:3Dスキャナーと3Dプリンターによって商品が簡単にコピーされてしまうのではないかという懸念です。

デメリット(あるいはその可能性)と対策について網羅的に概観しており、3Dプリンターを使って何かしてみよう、と思われる方は一読されるとよいと思います。長さも短く、10〜20分程度で読めてしまいますし。

ただ、懸念されているデメリットの多くは顕在化するまでまだしばらくかかると思われます。「製造物責任」について言えば、3Dプリンターはようやくごく一部の工作スキルを持った人達から、新し物好きの人達へ普及が始まったばかりです。そうした人々は「一般の消費者」よりも知識が豊富で、自己責任の意識が強いでしょう。「知的財産権」について言えば、現状の低価格3Dプリンターの出力品質は遠く成形品に及ばないのは前回書いた通りです。

個人的な感想ですが、「3Dプリンターの普及」という文脈より、デジタル・ファブリケーションの動き全体の影響として解釈すべきだと思います。例えば「危険物の製造」ですが、プラスチックは銃を製造するのに適した素材とは言えません。むしろ、海外のDIYユーザーの間でかなり普及してきている3軸制御のCNC切削機の方がリスクとしては高いでしょう。その他のデメリットについても、3Dプリンターの普及より先に、小規模な「MAKER」的生産者によるモノ作り産業の勃興によってもたらされるように思えます。

一般論ですが、「MAKER」的生産者は規模が小さい分、法務能力や顧客のサポート能力に劣る可能性が高いです。知的財産や製造物責任のトラブルとどうつきあっていくかは、まさに大きな課題と言えます。実際に先日、低価格光造形3DプリンターForm1のformlabsが業界大手の3D Systems社によって特許侵害で訴えられるというニュースがありました。formlabsからは未だに公式のコメントがなく、対応に混乱している様子がうかがえます。

デジタル・ファブリケーションによる工房的ビジネスの時代がくるとすれば、知的財産権のあり方も見直さなければならないのかもしれません。オープンハードウェアとMakerbotの関係を見るように、「MAKER」的起業家は「フリー」な知識の上に成り立っています。知識のオープン化と知的財産権の保護、どちらが社会にとってメリットがあるのか? そのバランスは、図らずもMakerbotのReplicator2やformlabsのForm1が示したように非常に難しい問題です。

(参考)

Amazon - 3Dプリンタの社会的影響を考える―英国の政策レポートをもとに [Kindle版]

Polar Bear Blog - 「3Dプリンタ政策」が争点になる時代に?
著者の小林啓倫氏のブログです。冊子でも参考にされた政策提言レポートについての記事

Tech Crunch Japan - 「3D Systems、低価格3DプリンターのFormlabsを特許侵害で訴訟。宣伝したKickstarterも」

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